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本郷理華選手、自分に負けるな!貪欲に這い上がれ!全日本フィギュア2016

全日本フィギュアスケート選手権が終わった。

今回の大会では、特に女子の大会が興味深かった。

浅田真央選手、村上佳菜子選手らのベテラン世代。

宮原知子選手、本郷理華選手などの現役エース世代。

そして、樋口新葉選手、三原舞依選手、本田真凛選手などの、新勢力世代の三世代が、表彰台を目指すという

まさに三つ巴の戦いとなった。

それにしても、男女ともにジュニア世代の有望選手が多い。

平昌だけでなく、その次のオリンピックも非常に楽しみになってくる。

大会の結果、2017年3月29日から4月2日にフィンランドヘルシンキで行われる世界選手権に派遣される選手がきまった。

男子シングル 宇野昌磨羽生結弦田中刑事

女子シングル 宮原知子 樋口新葉 三原舞依

ペア     須藤澄玲&フランシス・ブードロオデ

アイスダンス 村元哉中クリス・リード

派遣される選手については、長くなりそうなので、それぞれ今後、記事にしていきたい。

そして、浅田真央選手についても、頭を少し整理してから記事にしたいと思っている。

今回、全日本選手権が終わったばかりで、どうしても書いておきたいと思った選手がいる。

本郷理華選手だ。

今シーズンのグランプリシリーズでは、スケートアメリカ6位、中国杯5位と優勝したこともある本郷選手にしては、結果が伴わなかった。

回転不足を多く取られていたが、演技自体は、そうそう悪いというものではなかった。

昨シーズンよりダイナミックさがまして、迫力がでてきている。

しかし、トップ選手と比べると、得点が伸び悩んでいる印象を受けた。

原因はなんだろうと考えたとき、今シーズンの本郷選手の演技中の表情に思い当たった。

今シーズンの本郷選手は、演技中不安そうな表情をしている。

特にフリープログラムでそれを感じていた。

ショートは、ダイナミックでメリハリのある曲調なので、しっくりくるのか自信をもってやっているように見える。

しかし、フリーになると、とたんに何か悩んでいるような心配そうな表情になってしまっている。

フリーの曲「アラビアのロレンス」は、同門の先輩鈴木明子さんの振り付け。

本郷選手のダイナミックさを生かしながら、表現力を高めていくという難しいプログラムだ。

本郷選手にピッタリのダイナミックな素晴らしいプログラムで、もう少し滑りこなしていけば迫力ある演技が期待できると感じていた。

そのフリーの曲を、全日本選手権では、昨シーズンの躍進をかなえたプログラム「リバーダンス」に変更してきたのだ。

選手がシーズンの途中で、曲を変更してくることはよくあることだ。

おおむね、得点が伸び悩む場合、曲を以前のものに変えることが多い。

たいていは、プラスの方向へ向かうものだが、曲を途中で変更するのは、「賭け」でもある。

今回の本郷選手の場合、曲の変更が裏目に出たのではないのかと感じる。

昨シーズンのフリープログラム「リバーダンス」は確かに素晴らしかった。

アメリカのボストンで行われた世界選手権でも、躍動的に演技する本郷選手に自然と手拍子が巻き起こり、

ステップの場面では、歓声さえ上がっていた。演技終了後には、大歓声に包まれていた。

いきいきと楽しそうに演技する本郷選手の姿に、観客は素直に感動していたのだ。

「あの素晴らしい演技をもう一度」という思惑で、本郷選手のコーチ陣が「リバーダンス」に変更するという決定をしたことは、

あり得ることだと思う。

ただ、本郷選手自信がその決定に心から納得していたかどうかは疑問に思う。

全日本前のインタビューで、本人は「表現することが自分の実力的に足りなかった。悔しい」という心情を吐露している。

気持ちは切り替わったとも発言していたが、全日本のフリープログラムに登場した本郷選手の表情は、演技前から不安そうな表情だった。

混戦の女子フリーの最終滑走というプレッシャーが影響していたのかもしれない。

しかし、昨シーズンあれほど、イキイキと「リバーダンス」を踊り、笑顔を見せていた本郷選手は、そこにはいない。

アラビアのロレンス」のときの、悩める表情のまま「リバーダンス」を演技していた。

特に最初のコンビネーションが単発になり、次のジャンプが2LOになってしまってからは、みるみる元気を失っていく。

途中のステップのところでは、泣きそうな表情をしていた。

「あきらめちゃダメだ」と思わずTVに向けて叫んだとたん、本郷選手は、最後のジャンプ3Sに3Tをつけ、3回転3回転のコンビネーションジャンプを決めた。

私は、驚いてしまった。そして、その驚きは感動の涙となって頬を伝った。

本郷選手は、悩める状況の中でも、あきらめてなどいなかったのだ。

結果的にすべてのコンビネーションジャンプをリカバリーしていたことになる。

本郷選手の予定していたジャンプ構成と実際に飛んだジャンプ構成を比較してみた。

演技最後の疲れている状態で2連続コンビネーションを飛び、しかも最後のジャンプが3回転3回転というリカバリーは、至難の業だ。

それを見事にやってのけている。

本郷選手はたしかに、何かに悩んでいるのだと思う。

表現なのか、うまくいかないもどかしさとか、なかなか点数が上がらない焦りとか理由はいろいろあるだろう。

そのような悩みが演技に表れてきてしまっているような極限の心理状態でも、心の奥底では決して勝利をあきらめていないというアスリートとしての本能を形にして私たちに見せてくれたのだ。

ほんとうに感動した。

実際に、リカバリーには成功していて、2LOになってしまったジャンプが、3LOだったら、表彰台に上がっていたであろう。

フィギュアスケートとは、ほんの少しのメンタルの変化が演技に影響を及ぼすスポーツであり、本当に難しい競技だと感じる。

しかし、今回のフリープログラムを冷静に振り返れば、本郷選手自身が自分に自信をもっていいんだということに気が付くはず。

ヨレヨレの心理状態でも、本能で勝利をつかもうとしているのだから。

ただし、「リバーダンス」を不安そうに演技してしまったことはよろしくない。

リバーダンスはイキイキと演じなければならないダンスだからだ。

「リバーダンス」は、アイルランドアイリッシュダンスがもとになっている。

上半身を動かさず、足だけでステップを踏むという独特のダンスだ。

アイルランドイングランドの統治下にあった時代、言葉を含め、アイルランド文化を感じさせるものは禁止されていた。

そんな状況下で発展したのがアイリッシュダンスだ。

窓の外から、イングランド軍に踊っている姿がばれないように、上半身を動かさず、足だけでステップを踏むという反骨精神にあふれたダンスなのだ。

どん底の状況下のアイルランドの人たちが、未来への希望を胸に秘め編み出した究極のダンスだ。

本郷選手も、アイルランドの人々のようにたくましく踊り続け、這い上がってきてほしい。

現代では、どんなダンスだって堂々と自由に踊ることができるのだから。

そんな本郷選手の渾身の演技を見せてもらうことが、私の未来への希望でもある。